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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)890号 判決

原告

三菱タクシー株式会社

右代表者代表取締役

笹井良則

原告

新三菱タクシー株式会社

右代表者代表取締役

中村時雄

原告

三菱交通株式会社

右代表者代表取締役

村上雅一

原告

新三菱交通株式会社

右代表者代表取締役

笹井良則

原告

三菱興業株式会社

右代表者代表取締役

升田毅

右五名訴訟代理人弁護士

川見公直

浜田行正

吉川法生

豊島時夫

道下徹

浜田行正訴訟復代理人弁護士

西野淑子

被告

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

川口泰司

外一〇名

主文

一  被告は、

1  原告三菱タクシー株式会社に対し、金一億二七七一万八五五二円及び

(一)  内金八五三万三四六一円に対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(二)  内金九〇四万二九八八円に対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(三)  内金八七六万七二一五円に対する平成三年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(四)  内金九五三万九三二四円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(五)  内金八三一万三四六〇円に対する平成四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(六)  内金七六八万一三〇一円に対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(七)  内金八七七万一五〇〇円に対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(八)  内金八二九万八一七四円に対する平成四年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(九)  内金七九〇万一六二五円に対する平成四年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一〇)  内金八〇七万八八三一円に対する平成四年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一一)  内金八二七万一八八二円に対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一二)  内金七五〇万四一七一円に対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一三)  内金七六六万一〇八四円に対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一四)  内金八四〇万三三二九円に対する平成四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一五)  内金八〇〇万八九七一円に対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一六)  内金二九四万一二三六円に対する平成四年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員

2  原告新三菱タクシー株式会社に対し、金六二六五万八七八九円及び

(一)  内金四〇六万四九一四円に対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(二)  内金四二九万六九二五円に対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(三)  内金四一七万四六七四円に対する平成三年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(四)  内金四五四万六六四四円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(五)  内金三九〇万六四五七円に対する平成四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(六)  内金三七〇万二七九二円に対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(七)  内金四〇九万八〇四五円に対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(八)  内金三九〇万六四八六円に対する平成四年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(九)  内金三八五万九八六円に対する平成四年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一〇)  内金三九五万七七二一円に対する平成四年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一一)  内金四三五万一二四四円に対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一二)  内金三九八万六四円に対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一三)  内金三九〇万七〇六一円に対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一四)  内金四二九万一八二五円に対する平成四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一五)  内金四一〇万五〇四七円に対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一六)  内金一五一万七九〇四円に対する平成四年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員

3  原告三菱交通株式会社に対し、金五八五二万三〇七四円及び

(一)  内金三六八万二二八八円に対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(二)  内金三八六万八三五六円に対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(三)  内金三八〇万一一一七円に対する平成三年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(四)  内金四二二万五〇七四円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(五)  内金三八四万九〇一八円に対する平成四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(六)  内金三五三万三九五六円に対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(七)  内金四〇二万二五〇七円に対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(八)  内金三八六万五〇〇八円に対する平成四年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(九)  内金三八〇万五五一三円に対する平成四年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一〇)  内金三八四万五七四六円に対する平成四年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一一)  内金四〇六万三六六五円に対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一二)  内金三六三万二二五五円に対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一三)  内金三五七万四三二一円に対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一四)  内金三八三万一〇三四円に対する平成四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一五)  内金三五九万六六三二円に対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一六)  内金一三二万六五八四円に対する平成四年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員

4  原告新三菱交通株式会社に対し、金六三三八万三七四〇円及び

(一)  内金四二〇万六〇三八円に対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(二)  内金四四三万一三二八円に対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(三)  内金四二七万九五〇九円に対する平成三年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(四)  内金四七七万二七五五円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(五)  内金四一六万四六八五円に対する平成四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(六)  内金三八五万四〇七一円に対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(七)  内金四三〇万六〇二八円に対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(八)  内金四一三万七〇四六円に対する平成四年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(九)  内金三九八万四〇円に対する平成四年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一〇)  内金四〇三万一九六一円に対する平成四年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一一)  内金四三〇万三八七三円に対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一二)  内金三八三万四九八五円に対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一三)  内金三七五万五五九〇円に対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一四)  内金四〇三万七八二九円に対する平成四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一五)  内金三八六万八三四四円に対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一六)  内金一四一万九六五八円に対する平成四年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員

5  原告三菱興業株式会社に対し、金五二一一万五四五二円及び

(一)  内金三三八万七六四六円に対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(二)  内金三五五万三二四円に対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(三)  内金三四六万七五〇一円に対する平成三年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(四)  内金三九一万九八六円に対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(五)  内金三四三万七五八五円に対する平成四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(六)  内金三二三万七一〇円に対する平成四年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(七)  内金三五七万一七九三円に対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(八)  内金三四六万一二一八円に対する平成四年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(九)  内金三三四万八八六五円に対する平成四年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一〇)  内金三三四万七三六五円に対する平成四年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一一)  内金三五二万八一〇六円に対する平成四年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一二)  内金三一一万四五五六円に対する平成四年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一三)  内金三一五万七一六円に対する平成四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一四)  内金三三三万四七六円に対する平成四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一五)  内金三一二万八七四〇円に対する平成四年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(一六)  内金一一四万八八六五円に対する平成四年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員

を各支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主位的請求

別紙主位的請求の趣旨記載のとおり

二  予備的請求

別紙予備的請求の趣旨記載のとおり

第二  事案の概要

原告らは、いずれも大阪市及びその周辺地域において一般乗用旅客自動車運送事業等(以下「タクシー事業」という。)を営んでいるものであり、平成元年四月一日の消費税施行後も運賃を改定していなかったが、平成三年三月二九日、消費税相当額をタクシーの利用者に転嫁するため、訴外近畿運輸局長(以下「運輸局長」という。)に対し、道路運送法(以下「法」という。)九条の一般旅客自動車運送事業の運賃及び料金変更認可申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、運輸局長は、同年四月三〇日になってやっと右申請を受理し、右受理から四か月以上経過した同年九月一二日、右申請を却下した。

一  原告らの請求

1  不法行為請求(主位的請求)

原告らは、公務員である運輸局長は、職務行為として、次のような違法行為をしたとして、平成三年五月一日以降、原告らによる平成四年一一月一三日付一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金変更認可申請が同年一二月一一日付で認可されたまでの間(但し平成三年六月一日以降同年八月三一日までの分を除く)原告らが被った別紙損害額一覧表記載の損害の賠償を請求している。

(一) 消費税の転嫁を理由とするタクシー運賃の値上げについて、原告らの消費税転嫁通知による転嫁の権利の行使を妨げ、法的根拠がないにもかかわらず、原告らに本件申請をするように指導した。

(二) 原告らの申請を直ちに受理せず、平成三年四月三〇日まで受理しなかった。

(三) 消費税の転嫁を理由とするタクシー運賃値上げ認可手続において、無用の道路運送法の手続を実施した。

(四) 本件申請を受理後、平成三年九月一二日まで決定をせずに放置した。

(五) 本件申請を理由もないのに却下した。

2  不当利得返還請求(予備的請求)

原告らは、主位的請求と同期間について、被告に対し別紙消費税納付一覧表記載のとおりの消費税を納付したが、右納付は法律上の原因なくしてなされた不当利得であるとして、右金員の返還を請求している。

二  争いのない事実

1  原告らは、いずれも大阪市及びその周辺地域においてタクシー事業を営んでいるものである。

2  原告らは、平成三年三月二七日、運輸局長に対し、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に消費税額を加算する通知書」と題する書面を提出した。

これは、当時、原告らが認可を受けていた距離制運賃、時間距離併用運賃又は時間制運賃により算出される額(別紙第二記載のとおり)に消費税の三パーセントを加算した一〇三パーセントを乗じ、一〇円単位に四捨五入した額を顧客から受領する旨の通知であった。

3  ところが、運輸局長から法九条の認可申請をするよう指導されたため、原告らは、同月二九日、運輸局長に対し、本件申請(別紙第一記載のとおり)を行った。

4  運輸局長は、同年四月三〇日、右申請を受理し、同年六月一日にこれを公示し、同月二七日及び同年七月五日に原告らに対する聴聞を行い、同年九月一二日、右申請を却下した(以下「本件却下決定」という。)。

5  運輸局長は、平成元年二月及び三月になされた近畿地方を事業区域とするタクシー事業者(原告らと数社を除く。)からなされた本件申請と全く同じ内容の運賃変更申請に対しては、法八九条二項に基づく聴聞を行うことなく(同年三月一三日付で運賃変更申請のあった大阪府乗用自動車協会加盟の九社分については公示手続もしていない。)、同月一七日までに全部認可している。

三  争点

(主位的請求について)

1 消費税の転嫁を理由とするタクシー運賃の値上げについても、道路運送法の認可申請が必要か。

(原告らの主張)

消費税の転嫁は納税者の権利であり、納税者は消費税を転嫁するか否か及び転嫁の時期を決定できるのであるから、認可申請は不要である。

(被告の主張)

原告らは、平成元年四月の消費税課税実施段階では、運賃改定を見送ることにより、実質的には消費税相当分の運賃を値下げしたもので、今回の三パーセントの消費税の転嫁を求めた本件申請の実態は、運賃原価の変動が一つの要因となった実質的な運賃値上げ申請であり、道路運送法による認可申請が必要なことは当然である。

2 本件申請を却下したのは違法か。

(被告の主張)

本件申請について、運輸局長は、原告らに対し、原価計算書の提出を求めるとともに計算の根拠について説明を求めたが、原告らから原価の内容につき具体的な説明がなく、本件申請が法九条二項一号の適正な原価を償い、適正な利潤を含むとの要件を具備しているか否かについて判断できなかったため、右申請を却下したものである。

3 平成三年三月二九日、原告らが本件申請書を提出したのに対し、運輸局長が同年四月三〇日まで右申請を受理しなかったのは違法か。

(原告らの主張)

本件申請は、運輸局が原告らに運賃変更申請を求めたから行ったものであり、それを受理しないことは行政指導に名を借りた違法行為である。

(被告の主張)

原告らは、平成三年三月一二日付の大阪地区のタクシー運賃認可に際しては運賃改定を見送る措置を採ったが、その交渉の過程で、自らを含めた事業者の一般増車が認められれば、他事業者と同様に運賃改定申請を行う用意があると運輸局に示唆していた。ところが、原告らは、右運賃認可に際しては運賃改定を見送る意思表示をしたにも拘らず、同月二七日になって、突然三パーセントのみの運賃値上げ申請をしたため、運輸局では、原告らの真意を探る必要があると判断し、右申請を留保したものである。

4 消費税の転嫁を理由とするタクシー運賃値上げ認可手続においても、道路運送法等に規定されている公示・聴聞等の手続を行う必要があるか。

(原告らの主張)

聴聞等を行っても、それを本件申請の却下事由となし得ないのであれば、聴聞等を行うのは無意味である。

(被告の主張)

法律に特別な規定がない以上、消費税の転嫁を理由とする運賃値上げ申請の処理にあたっても、道路運送法にのっとり判断していくことは当然である。

5 本件申請を受理した後平成三年九月一二日まで認可の許否についての決定をしなかったことにつき違法な点はあるか。

(原告らの主張)

本件申請は、消費者に消費税を転嫁することの認可を形式的に受けるためだけのものであり、平成元年二月及び三月になされた近畿地方を事業区域とするタクシー事業者(原告らと数社を除く。)からなされた本件申請と全く同じ内容の運賃変更申請(もっとも遅いもので同年三月一三日付)に対しては、同月一七日までに全部認可されていることに鑑みれば、運輸局長は、遅くとも平成三年四月三〇日までには本件申請を認可すべきであった。

(被告の主張)

運輸局長は、本件申請に対し、道路運送法及び同法施行規則等に定められている諸手続に従って適正に処理したものであり、何ら違法はない。本件申請は、消費税施行から約二年経過した後の消費税転嫁を理由とする個別申請であり、異例のものであったので、法九条二項各号の要件を慎重に検討する必要があったのであり、本件却下決定に至るまでに要した期間は行政裁量の範囲内である。

平成元年の消費税施行時における運賃値上げ申請の認可は、消費税法公布から施行まで約三か月という短期間で処理することが求められていたこと、運輸局管内で一万一二七事業者という大量の申請を処理する必要があったこと、消費税施行という同一の時期に同一内容の認可をすることが期待されたこと等の特殊事情があったので、時宜を失しないようにとの見地から、即応的に行政措置を講じたものであり、本件申請と同列に論じることはできない。

6 原告らの損害額

(予備的請求について)

7 原告らが納付した消費税は、法律上の原因なくしてなされたものにあたるか。

(原告らの主張)

被告は、一方で原告らの消費税の転嫁を妨げながら、他方で原告らの消費税の納付を受け入れているのであって、被告の行動は矛盾している。転嫁を禁止するなら、消費税の納付はこれを拒否するか、納付があれば、積極的に還付すべきものである。

本件における運輸局長の行為の違法は明白かつ重大であるから、右違法行為の期間中は原告らに消費税納付義務はなく、右期間中に原告らが納付した消費税(別紙消費税納付一覧表のとおり)は法律上の原因を欠く。

(被告の主張)

申告納税方式による国税である消費税においては、納税者の申告により納税義務が確定し、納税者は申告にかかる税額を納付すべき義務を負担する。

原告らは、消費税の課税標準及び税額を計算した確定申告書を所轄税務署長に提出し、右申告書により確定した消費税の納付税額を納付しているのであり、原告らの納税申告により確定した消費税の納付税額は、その後所轄税務署長の更正等により取り消されていないのであるから、原告らの消費税の納付義務は消滅しておらず、原告らが納付した消費税は、法律上の原因に基づくものである。

8 被告が利得した額

(被告の主張)

原告らは、該当月の月割営業収入に対し、一〇〇分の三を乗じた額を請求しているが、実際に原告らが納付した金額は、別紙消費税納付状況一覧表(1)ないし(5)記載のとおりであり、原告らの請求は実際に納付していない金額を含んだ過大なものである。

第三  争点に対する判断

(主位的請求)

一  争点1(認可申請の要否)について

タクシー運賃の値上げについては、法九条一項、八八条一項一号、道路運送法施行令一条二項により地方運輸局長の認可を受けなければならないとされているところ、原告らは、本件の運賃値上げは消費税の転嫁を理由とするものであるから、右認可を受ける必要はないと主張する。しかし、消費税の納税義務者である事業者が、消費税相当額を消費者に転嫁するか否か、転嫁する場合、その時期程度については、別段の定めがなく、専ら事業者の判断に委ねられているから、消費者に対する消費税の転嫁は、事業者によって取引対価決定の中で諸事情を考慮してなされるのであって、タクシー運賃の場合も、消費税の転嫁は運賃の値上げとして表れることになる。従って、除外規定もない以上、消費税の転嫁を理由とするものであっても、タクシー運賃の変更については右認可が必要であるというべきであって、原告らの主張は理由がない。

二  争点2(本件却下決定の適法性)について

1 証拠(甲一の1ないし5、二五、二六の1ないし5、二七、二八の各1、2、三二、三三の1、2、乙一の1ないし5、一二、一三)及び前記争いのない事実を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告らは、昭和六一年一〇月二三日付けで別紙第二記載のとおりの運賃を道路運送法に基づき適正運賃として認可された。

(二) 平成元年二月から三月にかけて、同年四月一日からの消費税施行に伴い、同業他社は消費税を転嫁するため運賃値上げ申請をした。右申請の内容は、本件申請と同じく、当時の運賃に一〇三パーセントを乗じ、一〇円単位に四捨五入した額に運賃を変更するものであった。その際、運輸局長は、原告らに対し、消費税転嫁のための値上げ申請をするようにとの指導を合計四回くらい行ったが、原告らは、当時円高差益の関係もあって利益が上がってたので、消費税は原告らにおいて負担し、利用者に転嫁しないこととし、運賃値上げ申請をしなかった。原告らはその後も値上げ申請をせず、前記(一)の認可を受けて以降、一度も運賃変更申請をしていなかった。

(三) 平成三年三月二〇日、既に消費税転嫁による運賃値上げを実施していた同業他社がさらに平均11.1パーセントの値上げを認可されたことにより、タクシー運転手の賃金水準が一般的に上昇し、原告らも同年四月一日から歩合制度の下で運転手の給料改善を図ることとなったが、原告らの円高差益もかなり落ち込んで経営努力だけでは限界となる見込みとなったため、消費税転嫁分三パーセントの運賃値上げをする方針を定めた。しかし、原告らは、消費税転嫁を理由とする運賃の値上げは運賃そのものの変更にはあたらず、したがって法九条による認可は不要であるとの見解に立ち、同月二七日、運輸局長に対し、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に消費税額を加算する通知書」と題する書面を提出して、当時原告らが認可を受けていた運賃に消費税の三パーセントを加算した一〇三パーセントを乗じ、一〇円単位に四捨五入した額を顧客から受領する旨申し入れたところ、運輸局長から、消費税転嫁を理由とする場合であっても法九条の認可申請をするように指導されたため、原告らは、同月二九日、運輸局長に対し、本件申請を行った。

(四) 右申請に対し、運輸局長は、原告らは平成三年三月一二日付の大阪地区のタクシー運賃認可に際しての交渉の過程で、自らを含めた事業者の一般増車が認められれば、他事業者と同様に運賃改定申請を行う用意があると運輸局に示唆していたが、最終的に運賃改定を見送る意思表示をしたにも拘らず、同月二七日になって、同業他社との運賃の格差が14.2パーセントもあるのに、わずか三パーセントのみの運賃値上げ申請をしたため、原告らの真意を探る必要があると判断し、右申請の受理を留保した。

そして、同年四月初め頃、運輸局長は、原告らの実質上のオーナーである訴外笹井寛治(以下「笹井」という。)を呼び出したところ、当初、同人は病気等の理由でこれに応じなかったが、同月一一日、笹井と運輸局の自動車部長が会談した。右会談の席上、笹井は、同年三月二〇日までに増車の基本的な考え方が示されたならば運賃改定をするつもりであったが、もはやその意思はなくなったと明言した。一方、原告らの関係者は、同月初め頃から再三陸運支局に来庁し、申請を受理するよう強く求めた。さらに同月二五日、原告らの代理人から書面到達後一〇日以内に本件申請を認可するよう求める旨の内容証明郵便が運輸局に届いたため、同月三〇日、運輸局長は本件申請を受理し、原告らの関係者を呼び出してその旨告知するとともに、本件申請書の訂正(運賃変更の根拠条文の誤記)と道路運送法施行規則(以下「規則」という。)一〇条二項で規定されている原価計算書等申請書の添付書類の提出を求めた。

(五) そこで、原告らは、同年五月九日に現行運賃認可の際に提出した昭和五七年度の原告らの原価計算書を運輸局長に提出したが、同月一〇日頃、右原価計算書は年度が古いので平成元年度のものに差し替えるように指示されたため、同月二七日、指示どおりのものに差し替えた。

運輸局長は、同年六月一日、規則五五条により、これを公示し、同月一三日頃、原告らに対し、法八九条、規則五六条により、原告らの聴聞を行う旨通知し、同月二七日と同年七月五日にこれを行った。右聴聞において、原告らは、運賃変更の理由は消費税の転嫁であると陳述したにとどまった。ついで運輸局長は、原告らの競業者であるタクシー会社九社から、原告らが同一地域・同一運賃の原則に従わず独自に行っている運賃値上げ申請が認可されると、運送秩序が乱れ、利用者の利便が図れないとして聴聞の申請があったため、法八九条二項、規則五六条三号に基づき、同月一七日に右の者に対する聴聞を一括して行い、さらに訴外全国自動車交通労働組合大阪連合会からも同様の申請があったので、同月一九日に本件申請に対する反対意見の聴取を行った。

(六) 運輸局長は、これらの手続を経た後、原告らの本件申請については、法九条二項一号の「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること。」の要件が備わっているかを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、同年九月一二日、本件却下決定をした。

2 右事実を前提に本件却下決定の適法性について判断する。

(一)  法九条二項一号は、タクシー事業者の旅客運賃等の変更認可基準として、「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること。」と定めている(以下「適正原価・適正利潤条項」という。)。右条項は、安全かつ良質な運送サービスの提供を維持、確保するために置かれた規定であるから、右判断に際しては、利潤を適正な範囲内に制限すべき(換言すれば、超過利潤を生じない。)考慮とともに、適正原価を維持して、運転手の労働条件低下からサービス面や安全上の問題を引き起こし、或いは不当な価格競争を引き起こすおそれがないこと等を検討すべきである。

(二) これを本件についてみると、第三の二1で認定したとおり、原告らは昭和六一年一〇月二三日の認可では適正運賃として認可を受けていること、右運賃値上げ後は消費税施行後も含めて一度も値上げ申請をしていないこと、本件申請は従前の運賃の消費税相当分である三パーセントの値上げであること、原告らが消費税転嫁分三パーセントの運賃値上げに踏み切ったのは、平成三年三月二〇日、既に消費税転嫁による運賃値上げを実施していた同業他社がさらに平均11.1パーセントの値上げを認可されたことによりタクシー運転手の賃金水準が一般的に上昇し、原告らの円高差益もかなり落ち込んで経営努力だけでは従来の営業収入を確保することができなくなったためであることが認められ、右事実によれば、昭和六一年に適正な原価を償うものと判断されて認可された現行(当時)運賃について、その後、消費税が施行されたことにより運賃の原価が増加し、能率的な経営の下における適正な原価を償うことができなくなったため、原告らは、原価の一部を構成する消費税分を値上げすることによって改善を図ろうとしたものであると認められる。

そして、消費税については、税制改革法一一条一項に「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。」と規定されており、消費税の形式上の納税義務者は事業者であるが、実質上の負担者は消費者であるとの趣旨を明確にしているのであって、右の消費税の性格に鑑みれば、消費税を転嫁するために運賃を値上げすることは何ら不当ではないし、本件値上げ申請を認可することによって原告らが超過利潤を得るとは認められない。

(三) 被告は、本件申請は同業他社より低い三パーセントのみの値上げであるため、運転者の労働条件低下からサービス面や安全上の問題を引き起こし、または他のタクシー業者と不当な価格競争を引き起こすおそれがないかなど三パーセントの値上げだけでは運賃が低すぎないか否かについても審査を行う必要があったと主張する。

しかし、被告が低すぎるとして問題とする原告らと大阪地区の他のタクシー業者との運賃の格差は、従前の他のタクシー業者の値上げ申請に際して原告らが値上げ申請をしなかったことによって既に生じていたものであり、本件申請を認可することによって新たに生じるものではなく(むしろ、本件申請を認可することによって、右格差は狭まる。)、また前示のとおり、原告らの本件申請の理由は、円高差益の減少、運転手の賃金水準の上昇と消費税転嫁によって、現行(当時)の運賃では適正な原価を償うことができないから、消費税転嫁により、能率的な経営改善を図るというものであり、本件申請を認可しても、労働条件の低下や不当競争の問題が起こる可能性があるとも認められない。

運輸局長において、原告らが本件申請が認可された後の運賃によってもなお労働条件の低水準化や不正競争を図ろうとしているなど公共の福祉を阻害している事実があると認めるときは、法三一条により運賃値上げその他の事業改善の命令をすることによって対処すべきである。

(四) 以上によれば、本件申請は、適正原価・適正利潤条項の基準に適うものと見るべきであり、その他法九条二項各号に定める基準にも適っていると認められるから、これを認可すべきであって、本件却下決定は違法である。

三  争点3(申請受理留保の適法性)について

次に、運輸局長が本件申請の受理を平成三年四月三〇日まで留保していたことが違法といえるかについて判断する。

被告は、本件申請の受理を留保していたのは原告らの真意を探る必要があったためであると主張する。右の真意の確認がなぜ必要であるのか明らかではないが、乙一三号証によれば、運輸局長は、当時、運輸局が指導方針としている同一地域・同一運賃の原則に従って原告らも同業他者と同程度の運賃になるよう値上げ申請をしてほしいとの意向を有していたことが認められ、右事実を考え合わせると、原告らに対し同一地域・同一運賃の原則に従った指導をするため、申請受理を留保したものと推認できる(これらの行政指導を前提としない単なる真意の探究のために申請受理を留保することが社会通念上合理的とは到底いえない。)。しかし、運輸局長が本件申請につき、原告らに対し行政指導をしなければならない動機・必要性があったことを納得させる事情が認められないばかりでなく、前記第三の二1(四)で認定したとおり、原告らは、本件申請は消費税を転嫁するための値上げ申請であるから、速やかに受理してほしい旨当初から一貫して申し入れているのであって、遅くとも平成三年四月初め頃に原告らが右指導に従う意思がないことは明確になっていたということができる。結局、被告の主張する原告らの真意の確認は、本件申請の受理に際し検討する必要のない事柄であって、受理留保を正当化する理由にはならないというべきである。

従って、運輸局長は、遅くとも平成三年四月初め頃には本件申請を受理すべきであったのであり、同月三〇日まで受理を留保したのは違法である。

四  争点4(認可手続における法定手続の履践の要否)

原告らは、聴聞等を行っても、それを本件申請の却下事由となし得ないのであれば、聴聞等を行うのは無意味であると主張するが、第三の一で説示したとおり、法律に特別な規定がない以上、消費税の転嫁を理由とする運賃値上げ申請の処理にあたっても、道路運送法所定の手続に従って判断していくことは当然であり、原告らの主張は理由がない。

五  争点5(決定の遅延の適法性)について

そこで、運輸局長が本件申請を受理した後、平成三年九月一二日まで本件申請に対する許否の決定を遅滞したことが違法といえるかについて判断するが、まず、運輸局長が本件申請を受理してから平成三年七月一九日に訴外全国自動車交通労働組合大阪連合会からの反対意見の聴取をするまでの手続は、法定の手続に従ったものであるが、第三の四で説示したとおり、本件申請を認可するか否かを決定するに際しても、道路運送法所定の手続を踏むことは必要であり、かつ、それに要した期間も相当なものといえるから、適法である。

次に、右反対意見の聴取が終了した後、本件却下決定をするまでに約二か月間かかっている点について検討するに、本件値上げ申請が消費税転嫁目的であることは申請書にも記載されており、原告らは昭和六一年一〇月二三日の認可では適正運賃として認可を受けていること、右運賃値上げ後は消費税施行後も含めて一度も値上げ申請をしていないこと等第三の二2(二)で摘示した法九条二項各号の基準について判断するため考慮すべき諸事情は、本件申請当初から運輸局長にも明らかであった。

そして、その後の聴聞等においても、原告らが本件値上げによって超過利潤を得るなど本件申請を認可することによって新たに弊害が生じることを窺わせる事実は認められなかったのであるから、運輸局長は、遅くとも本件申請を受理した平成三年四月三〇日の約三か月後である同年八月初め頃には本件申請を認可することができた(ちなみに、平成元年三月の消費税実施直前の本件申請と同一内容の運賃変更申請については、極めて短期間に認可決定がなされている例がある。)のであり、かつ、認可すべきであったから、右反対意見の聴聞が終了した後、約二か月後である同年九月一二日まで決定を遅滞したのは、運輸局長の裁量権を逸脱したものであり、違法であるというべきである。

六  被告の責任原因

以上によれば、運輸局長は、遅くとも平成三年四月初め頃には本件申請を受理し、受理して約三か月後の同年七月初め頃にはこれを認可すべきであったのにこれを怠り、その職務を行うについて、過失によって違法に本件申請の受理を遅滞させ、これを却下したのであるから、被告は国家賠償法一条一項により原告の被った損害を賠償すべき責任がある。

七  争点6(原告らの損害額)について

原告らは、運輸局長の違法行為により、別表損害額一覧のとおりの損害を被ったと主張し、証拠(甲二ないし一一、一九ないし二三、三七ないし四二、五四及び五五)によれば、平成三年五月分、同年九月分ないし平成四年一二月分(ただし平成四年一二月分は同月一〇日まで)の原告らの総営業収入に0.03を乗じたものは別表損害額一覧記載のとおりであると認められるが、第三の五で説示したとおり、運輸局長が本件申請を認可することができ、かつ、認可すべきであった時期は平成三年七月初め頃であるから、被告が原告らに賠償すべき損害の期間は右の時期以降であり、別表損害額一覧のうち平成三年五月分を除いた額が被告が原告らに賠償すべき損害にあたるというべきである。

(平成三年五月分についての予備的請求)

八 争点7(原告らが納付した消費税の法律上の原因の有無)について

原告らは、被告の機関である運輸局長が原告らに消費税の転嫁を許さなかった行為の違法は明白かつ重大であるから、原告らには消費税の納付義務はなかったと主張するが、申告納税方式による国税である消費税においては、納税者の申告により納税義務が確定し、納税者は申告にかかる税額を納付すべき義務を負担するところ、本件では、原告らは、消費税の課税標準及び税額を計算した確定申告書を所轄税務署長に提出し、右申告書により確定した消費税の納付税額を納付しているのであり、消費税法及び税制改革法には事業者に消費税の転嫁義務を課した規定はないし、原告らが主張する事由により原告らの消費税の納付義務が消滅する法的根拠もないから、原告らの消費税の納付義務は消滅しておらず、原告らが納付した消費税は、法律上の原因に基づくものである。

よって、原告の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

九 結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、第三の七において認定した限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官中桐圭一 裁判官西口元は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官將積良子)

別紙主位的請求の趣旨、予備的請求の趣旨、第一、第二〈省略〉

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